お足元が悪い中

ひとり映画感想文集

正体不明の涙(お題「号泣した映画」)

お題「邦画でも洋画でもアニメでも、泣けた!というレベルではなく、号泣した映画を教えてください。」

※後半でHBOドラマ『チェルノブイリ』の話をしています。原発事故を扱った壮絶なドラマの話なので、今そういうの読んだら疲れるな……という人はご注意ください。

 

 

 あるな〜。私はいつも「〇〇な映画教えて」と人から聞かれてもパッといい答えが出てこないのだけど、このお題も見ても「あるな……(しかし何だったかはパッと出てこない)」になってしまった。ちょっと頑張って思い出してみようと思う。

 

『紳士協定』(1947)

 内容を今やあまり覚えていないのに、「めちゃくちゃ号泣した」という記憶だけが残っている映画がある。『紳士協定』。

 あらすじは、今さっきちょっと調べたら何となく思い出したのだが、ある記者が記事を書くために「自分はユダヤ人だ」と名乗ることで周囲の反応を見て、反ユダヤ主義の実態がどういうものかを探ろうとするという話だ。日本で生まれ育った自分にはなかなかピンと来ないな、と思ったのも覚えている。でも、例えば、顔の見えないインターネット上で周りからどんな属性を持っていると思われるかで経験するものが全く違ってくる、というようなことに近いものだと思う。

 「紳士協定」という言葉自体の意味は、暗黙の了解、言外でなされる協定というようなもので、つまり主人公の周囲や属している社会に反ユダヤ感情が暗黙のものとして存在していることを指している。

 主人公がユダヤ人だと名乗ってからというもの、周囲の態度は一変してしまう。身近な人だけではなく、泊まるホテルの対応とか社会的な部分まで。確か最後の方にグレゴリー・ペックの長台詞があって、それが暗黙の了解的になされる差別に反対するすごくいい台詞だったのだ、確か。1947年にこの映画が作られたというところも含めて、ものすごく泣いた記憶がある。

 

チェルノブイリ

 もう一つ思い出したのは、これはドラマのミニシリーズだが、HBOの『チェルノブイリ』だ。夜の9時くらいからうっかり見始めてしまってそのまま5話全部見てしまった。言うまでもなくチェルノブイリ原発事故を扱ったドラマで、小学生ぐらいの頃から「戦争・原爆もの」で刷り込まれた怖さをありありと思い出した。

 緊張感と重量感がものすごくて前半の3話は泣いている余裕なんてなかったのだが、4話で危険区域に残された動物の駆除をする青年が主人公のパートがある。『聖なる鹿殺し』とか『イニシェリン島の精霊』のバリー・コーガンがその青年で、この回で何かのバルブが外れたように号泣したのを覚えている。怖かったのか、かわいそうだったのか、つらかったのか、理由がうまく言葉にできない。

 そういえば『ウィンド・リバー』もそういう号泣の仕方だったな……(これも大変しんどい話なので、あらすじをしっかり確認してから観ることをお勧めします)。こう、『レ・ミゼラブル』とか『ショーシャンクの空に』を見て号泣する時とは全然違う種類の涙が出るやつ。涙は辛くても嬉しくてもストレス負荷がかかった時に出る、という話の裏付けになるような……多分もっと全然自分では理由がわからない種類の涙ってあるんだろうな。