お足元が悪い中

ひとり映画感想文集

原作者のブログでファンアートを紹介された:『ダレン・シャン』とSNSの話

 

 

はじめに

 ここ最近、ローティーンの頃のバイブルだった児童小説『ダレン・シャン』を、大人になってから原書で全巻読み返した感想や考察などをブログに書いている。

 

kemushimushi.hatenablog.com

 一応簡単に説明しておくと、『ダレン・シャン』とは90年代後半から2000年代初めにかけて刊行されたダークファンタジー小説で、友達の命と引き換えにバンパイアになった少年の話である。この頃はファンタジー児童小説がとても流行っていたが、その中でも特に人気だったので読んだことのある人は多いだろう。これでいろいろな好みを形作られたという人も多いだろう。私もそうです。

 

 本当は1記事で12冊分と、この記事に入れるはずだった内容を全部書くつもりだったのだが、最初の一冊の話をしているだけで7000字くらいになってしまったので、結局こうして分けて更新している次第。

 今回は、その番外編というか、まあタイトル通りなんですが、自分のフィクションの好みや興味の源泉になった小説の作者と思いがけない交流があって嬉しかったという話です。二年前の話をまだ擦ってんのかという感じは否めませんが、未だに新鮮に嬉しいというのと、途中ブランクがありつつも最近本編を無事最後まで英語で読みまして、もりもりと再熱しているので、この流れに乗って記事にしちゃおうというわけです。

 

読み返して今現在のファンダムを探した話

 そもそもなんで急に20年前の小説を読み返していたのかというのは、先ほど貼った記事の冒頭部分を読んでいただければお分かりになるかと思う。掻い摘んで言うと、いろんな事情によりすごく時間があって、実家の本棚にある新井隆弘先生の漫画版を読み返して、「今なら英語でも読めるんじゃない?」と思い開いてみたら意外といけた、という感じだ。

 前日譚に当たる『クレプスリー伝説』を合わせて読んだりして、私はもう抱えきれない巨大感情で大変なことになっていた。しかし読んでいるのは20年前の小説だ。話の分かりそうな数少ない友人に「助けてくれ(?)」と泣きついてみるが、何せみんな記憶がうすい。無理もない、ていうかあんな面倒な絡みかたして申し訳なかった。私の当時のフォロワーさんにおかれましては、急に昔懐かしい小説の話を大量にツイートし出してさぞ怪しかったことと思います。その節はすみません。おかげで『ダレン・シャン』を知っているフォロワーを炙り出すことが出来て嬉しかったです。

 今でもアクティブに話をしている人はいないのか、ネット上をあちこち探して、日本語で活動しているファンダムの中から何人かとも繋がることができた(お世話になってます)。そして、英語圏。原題"Cirque Du Freak"("The saga of Darren Shan"とも呼ばれる)のファンダムは、規模こそ小さいが、ある。TumblrTwitterハッシュタグをつけて探すと、今でもイラストを描いたり二次創作をしたりしている層がいるのだ。もちろん、ネット上にこだわらなければ今でも世界中にファンがいるのだろうし、それこそ刊行中の規模はすごかったのだろう。この時期は久しぶりに絵をたくさん描いていたというのもあり、ほかの方の作品を見て私も描きたい! となったわけである。

 そして、ようやく本題に入るが、このファンダムと同じネット空間に作者のダレンさんも存在している。遡れる限りはもう10年以上ブログを更新し続けていて、日常の出来事や新刊の情報、過去の作品の裏話、ファンアートやタトゥーの紹介などが載っている。ファンアートはハッシュタグがついているものを中心に、ご本人もよくリツイートしたり何ならたまにファンの会話に混ざったり(そんなことある?)(あるんですよ)と、ファンダムと作者の距離がとても近いのだ。日本のコンテンツではなかなか見ない光景だと思う。

 

ダレンさんからいいねとリプライが来た話

 そういう諸々のことを、私は本編を英語で読みつつファンアートを5枚くらい描いてしっかりタグをつけてTwitterに連投して、ダレンさんからいいねとリプライが来て思い出した。

 う、うわああああ〜〜〜!! あああ〜〜〜!!!!!!!!!!?、

 

 なんか、確かこのリプライが来たのが夕方の5時くらいだったんだけど、私は錯乱して何故かアイルランドが今何時なのかを調べたのを覚えている(ダレンさんはアイルランド在住です)。朝の8時半とかだったかな……。

 ぼのぼの見たことないから恐縮なんですけどマジでぼのぼのみたいな汗がヤバくて、伝わる? いや本当に、そこそこクーラー効いた部屋にいたはずなんだけど汗がヤバかった。あとなんかこの日の夜やらなきゃいけないことがあったはずなんだけど、全部忘れて今も思い出せない。

 リプライの内容としては、「素敵な絵なのでこの先のブログで紹介してもいいか、もしよかったら名前を教えて」という感じだ。私は英文をある程度読めて聞けるが英作文となると結構なポンコツになるのだが、ツリーを見る限り返事は出来ているのでなんか頑張って返事したんでしょう。

 まあちょっといろんな間違いはあるが、いいだろう。いいだろうよ……。まさかこんなところで無駄に覚えていた『ダーティ・ハリー』の決め台詞("Make my day, punk!")が役に立つとは、本当に人生何があるかわからない。

 本当にな。

 これはこの時期に描いていたイラストのいくつか。

1巻冒頭。「トイレに落っこちでもしたのかよ、えっ?」

クレプスリーがダレンの墓を掘るのにシャベルを持ってきたというのが印象的だった

2巻に小話として出てくるエブラの過去。

 全部こんな感じのモノクロの手描きで、最近またいろいろ描いていているので全部で30枚くらいになった。同じツリーに下げる形で更新しているので、興味のある人は見てくれると嬉しいです。

 

ダレン・シャン・ジャパン」の話

 奇妙なことに私はこのことがあってから思い出したのだが、私が絵を描き出したのは『ダレン・シャン』本編というよりかは、邦訳本のハードカバー版に毎巻付いていた、読者の感想を集めた付録がきっかけだった。大抵A4かA3の見開きサイズで、編集部に送られた感想の葉書やイラストがぎっしり紹介されている。Twitterfacebookもなかった時代だ。一つのコンテンツに対しての大勢の声が一箇所に集められた紙一枚を、私は語弊なく擦り切れるほど繰り返し読んで、そこに載っているファンアートを見て絵を描き始めた。18年くらい前の話である。

 一時期は漫画家になりたいなと思っていたことなどもあってそこそこ本気で絵を描いていた(つもりだった)のだが、いつしか興味が映画のほうに移り、特に大学や大学院へ行ってからは一年に一度筆を取ればいい方というようなペースだった。Twitterのアカウントも主に映画の感想や考察で回していたので、私が絵を描くということ自体知らなかったフォロワーさんもいたのではないかと思う。

 2年前に精神的不調で仕事を辞めて、気分的にかなり落ち込んでいた時、なぜか絵を描きたくて描きたくてたまらなくなった。小さいスケッチブックと大きいスケッチブックを買って、その時心の支えだった『指輪物語』のイラストを描き出したのだが、半年ほどで120枚くらいになり、のちにまとめて同人誌にしたら背幅が1センチになった。あれから2年、描かない時期も確かにあったが、お絵描きは晴れて私のワイフワークの一つとして復活を遂げたのである。それがこんな形になるとは、想像もしなかった。

 

 ダレンさんはリプライを送ってくれた次の年の1月から4月まで、月に1回、私がこの時投稿していたファンアートを4回に分けてほぼ全て紹介してくれた。これはその最初のツイートなのだが、リンク先の本文ではなんかいい感じの言い回しですごく褒めてくれていて、いまだに現実感がない。4月の更新分では『クレプスリー伝説』の一場面を描いたものと一緒に、スピンオフを書くきっかけになったエピソードなども載っている。かなり貴重な話だと思う。

 私は順不同でInstagramTumblrにも同じイラストを投稿しているが、ダレンさんのこのブログを見てわざわざ私のアカウントを探してコメントをくれたり、Twitterにはアカウントがないファンと交流ができたりと時折とても嬉しいことが起こっている。描いたもの全ての出来栄えに納得しているというわけではないが、差し支えがなければやはりとりあえず人の目に触れるところに置いておくのがいい。後になって検索した人が狂喜乱舞するかもしれないし、実際私はオンライン上にある過去のファンアートを漁って狂喜乱舞していたのだし。

 

おわりに

 そんなわけで、絵を描くきっかけになった小説の作者に絵を褒められて、人生の伏線回収がされたという話でした。補足しておくと、ダレンさんが(私の知る限りでは了解をとって)ファンアートをブログで紹介するというのはそんなに珍しい話ではなく、ブログには私以外にもたくさんの人の作品が載っています。ひょっとしたらこんなにめっちゃ騒いでいるのは私だけかもしれないんですが、まあいいでしょう。記念なので。マジで。

 2年前に始めた英語での読み返しはいろいろ事情があり7巻の終盤で止まってしまい、つい先月再開して無事最終巻まで読み終えました。それに合わせて終盤の数冊のファンアートも何枚か描いているのですが、ダレンさんはそれもいくつか拾って紹介してくれました。シリーズ真ん中あたりの巻の絵を全然描いていないので、その辺も描いたらオンラインのどこかで順番通りにまとめたいです。

『精霊の湖』は描くの楽しかった

11巻の序盤で故郷に帰るも、ダレンは大人になった妹とは距離を取る

 本編を読みながらここはどんなふうに絵で表現できるか、どんな構図が一番伝わるか、どんなふうに線を引くか、そんなことを考えて実際にイラストに落とし込むのがとても楽しいです。なかなか思い通りにいかないところも含めて、そういうプロセスがあるのが面白い。考えると、10歳の頃「ダレン・シャン・ジャパン」を読んで真似してやっていたこととほとんど変わらないんですが。こんなに面白いことやってたんだな、10歳の私は。

 描かない時期もあるけど、お絵描き、私の元に戻ってきてよかったね!