お足元が悪い中

ひとり映画感想文集

1700円の帰路

 髪を切ってパーマをかけてきた。ここ数年普通のショートカットで過ごしていたが、髪に中途半端な癖があるせいか、少し伸びるとあっという間にシルエットが重くなってしまう。ならばいっそのことちゃんとした癖を付けようと思ったのだ。あと毛量が半端ないので、涼しくなると評判のツーブロックにもしてみた。結果、めちゃくちゃ軽いし涼しい、これはいいぞ……当分これでいこう。
 ただ、カラーは予算オーバーでできなかった。去年の秋に脱色して以来放っといてしまっているせいで、私の髪は今毛先10センチぐらいが茶金色になっている。陽に当たるとけっこう光って目立つので、今カラーバターを塗って自分で焦げ茶色に染めているところだ。この文章を書き終わるころには、たぶん丁度いい塩梅になると思う。
 
 さて、パーマとカットは合わせてだいたい9000円だった。パーマをかけたのは初めてなので相場がいまいちわからないが、まあまあ良心的な値段なんじゃないかと思う。帰りにカフェに寄って、友達と作っている旅行記の原稿をちょっとだけ書いた。コーヒー代は450円。これもまあ、チェーン店のちょっと良いコーヒーとして納得できる値段だ。
 ところが、カフェにいるとき、うっかりスマホの充電コードを忘れたことに気がついた。しかも充電コードだ。満タンの充電器はあるのにコードがない、弁当持ってきたのに箸忘れたみたいなシチュエーションはけっこう心にくる。ラップトップにデザリングさせていたせいで電池の減りが早く、しかも私のスマホはもういいだけ寿命が近いようでその追い討ちもあり、コードを忘れたことに打ちひしがれている間に残量は9%になってしまった。早すぎない?
 うわーどうしよう。家はそんなに遠くないから、ここで切り上げてさっさと帰るか、帰り道で確実に充電切れるだろうけど……聴いてる音楽も途中でブツっと行くだろうけど……今9%だから聞く間もなく切れるかな。逡巡しながら自分のスマホ中毒を実感した。
 いや、それよりも。枕元にあるコードを鞄に入れようとして忘れるなら、鞄にいつも入れておくコードを買った方がいいんじゃないか? 今、そこの本屋で。電子機器のコーナーがあった気がする。何より、そうしたら今すぐ充電ができる。音楽も聴きながら歩ける。一度ちゃんと聴こうと思ってたちょっと前の星野源のアルバムを聴きながら帰ることが……いやいや、これは今後への投資だから。この先便利だから今買っとくから……
 
 で、買ったのである。アイフォン対応のコードはCTypeより若干割高で、1700円。私の今日の25分の帰り道の値段だ。カットよりもパーマよりも、コーヒーよりも余程贅沢に感じた。傘を刺すほどでもない雨がぽつりぽつりと降って、半袖ではかなり涼しい夕方を、『ばかのうた』を聴きながら、ゆっくりゆっくり歩いて帰った。6ミリに刈ってもらった襟足がちょっと寒い。それぐらい涼しい夕方だった。歩道と並行に続いている植木には緑色の葉っぱと赤い葉っぱが入り混じっていて、真っ直ぐ前を見ると赤い線のように見える。何回も通っている道だけど初めて気づいたことだ。1700円。まあいいかな。
 
 さて、そろそろ髪の毛も染まっただろう。